「契約直前で『この物件では風俗営業許可は取れません』と判明した」――社交飲食店(風営法1号営業)の開業相談で、最も多く、そして最も深刻なトラブルがこれです。内装にいくら投資しても、人通りがどれだけ多くても、その場所が「営業できない用途地域」であれば許可は100%下りません。本記事では、風俗営業の1号営業(キャバクラ・スナック・ホストクラブ・ガールズバー等の接待飲食店)を念頭に、用途地域の仕組みと愛知県の具体的な制限を、行政の一次情報に基づいて解説します。
この記事は、行政書士久遠事務所が、e-Gov法令検索および愛知県警察・愛知県の公式情報に基づき執筆しています。バー現場経験と風営法許可申請の実務をふまえ、物件選びの段階でつまずかないための要点をまとめました。
用途地域とは、都市計画法に基づき、土地をどのような目的で使うかを定めた区分のことです。住居系・商業系・工業系など、全部で13種類に分かれています。市区町村が「このエリアは住宅中心に」「ここは商業を集積させる」と計画的に線引きしているもので、多くの場合、駅周辺に商業系の地域が広がり、その外側に住居系が配置される、というパターンが一般的です。
風営法では、この用途地域のうち住居系の地域での風俗営業を原則として禁止しています。理由はシンプルで、住民の生活環境(良好な風俗環境)を守るためです。これは風営法第4条第2項第2号に根拠があり、「営業所が、良好な風俗環境を保全するため特にその設置を制限する必要があるものとして政令で定める基準に従い都道府県の条例で定める地域内にあるとき」は許可をしてはならない、と定められています。
(参照: e-Gov法令検索 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)
政令(風営法施行令第6条)は、制限地域を指定する基準として「住居が多数集合しており、住居以外の用途に供される土地が少ない地域(住居集合地域)」を挙げています。これを受けて、愛知県の条例では次の用途地域を「第一種地域」とし、全域で風俗営業を禁止しています。
・第一種低層住居専用地域
・第二種低層住居専用地域
・第一種中高層住居専用地域
・第二種中高層住居専用地域
・第一種住居地域
・第二種住居地域
・田園住居地域
「住居」という文字が付く地域は、見た目がどんなに繁華街でも許可が下りないと考えてください。営業所の一部でもこれらの地域にかかっていれば、その時点で許可は取れません。
(参照: 愛知県 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(別表第一))
逆に、次の地域では用途地域上は風俗営業が可能です。
・商業地域
・近隣商業地域
・準工業地域
・工業地域
・工業専用地域
・用途地域の指定がない地域
建築基準法の壁に注意
工業地域・工業専用地域は風営法上「営業可能地域」に入りますが、建築基準法ではキャバレー・ナイトクラブなど接待を伴う店舗の建築が制限されています。そのため1号営業で現実的に出店先となるのは、ほぼ商業地域と近隣商業地域に絞られます。法律の目的(所管官庁)が違うため、用途地域上OKでも建築基準法でNGというケースが起こり得ます。矛盾が生じそうな立地では、必ず管轄警察署と建築部局の双方に事前相談してください。
用途地域が商業地域だったとしても、それだけで許可が取れるわけではありません。学校・病院などの「保全対象施設」から一定距離内にある場合は、たとえ商業地域であっても許可が下りないからです。これも風営法施行令第6条が「保全対象施設の敷地の周囲おおむね100メートルの区域を限度」として都道府県条例で定めるとしており、具体的な距離は都道府県ごとに異なります。
愛知県では、学校(学校教育法第1条の学校。幼稚園を含み大学を除く)、幼保連携型認定こども園、保育所、病院、有床診療所(患者を入院させる施設を有する診療所)が保全対象施設に指定されています。営業所が位置する地域区分に応じて、次の距離内に保全対象施設があると許可されません。
| 保全対象施設 |
第二種地域(準住居地域) |
第四種地域 |
|---|---|---|
| 学校(大学を除く)・幼保連携型認定こども園 | 100メートル以内 | 70メートル以内 |
| 保育所・病院・有床診療所 | 50メートル以内 | 30メートル以内 |
このように、愛知県では営業所が商業地域にあると距離制限が緩和されます(学校で70m、病院等で30m)。逆に準住居地域などでは100m・50mと厳しくなります。なお保全対象施設には「これらの用に供することが決定した土地」も含まれるため、現時点で更地でも、学校等の建設計画が公告されていればその土地は保全対象として扱われます。
(参照: 愛知県 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例(第四条))
距離は水平面の直線距離で測ります。警察庁の解釈運用基準では、営業所がビルの2階以上や地下にある場合でも、営業所の位置から垂直に地面へ下ろした地点を起点として測るとされています。「上の階だから距離が稼げる」ということはありません。
テナント探しをしているオーナー様に絶対に使ってほしいのが名古屋市都市計画情報提供サービスです。名古屋市都市計画情報提供サービスとは、名古屋市が公式に提供している、インターネット上の地図システムです。住所を入力するだけで、その土地に「どんな建物を建てていいか」「どんな商売をしていいか(用途地域)」が瞬時に表示されます。
日本の都市計画法は、全国のすべての土地を「用途地域」という区分で色分けしています。この区分によって、その土地でできる商売の種類・営業時間・建物の規模が法律で厳格に定められています。どれだけ内装にこだわっても、どれだけ資金を投じても、用途地域が合っていなければ、その物件で風俗営業許可を取得することは不可能です。
※保全対象施設は表示されないので必ず実地による事前調査が必要です。
現場の声:「同じビルで営業している店があるから大丈夫」は要注意
シーシャバーの開業相談の現場でも、「不動産屋さんが風営OKと言っていた」「同じビルに前から営業しているお店がある」という話を本当によく聞きます。しかし、これらは判断材料になりません。同じビルでも、通りに面した側は商業地域・反対側は住居系地域という「用途地域のまたぎ」が起こることがあり、営業所の位置次第で許可の可否が分かれます。また、近隣の既存店は「既得権」で営業しているだけで、新規申請が通る保証にはまったくならないのです。
もう一つ注意したいのが、許可取得後に状況が変わるケースです。許可を取った後で近所に学校や病院ができたり、都市計画法の改正で用途地域が変更されたりすると、新たに「営業制限地域」に該当してしまうことがあります。現に許可を持っていても、相続・店舗の譲渡・近隣への新店舗計画ができなくなる事例が実際にあります。店舗の譲渡や新規出店を検討する際は、必ず最新の状況を確認してから動いてください。
・物件の用途地域を市区町村の都市計画課で確認する(用途証明の発行可否も併せて確認)
・営業所が複数の用途地域にまたがっていないかを確認する
・半径100m以内の保全対象施設を、地図だけでなく現地を歩いて確認する(建設予定地も含む)
・物件契約には「許可が取れなかった場合に契約を白紙にできる」停止条件・解除条件を盛り込めないか検討する
用途地域と保全対象施設の調査は、行政書士の間で「風営法申請の命」と呼ばれるほど重要な工程です。見落とせば不許可となり、数百万円規模の初期投資が無駄になりかねません。物件を申し込む前の段階でご相談いただくのが、最も確実なリスク回避です。
【行政書士久遠事務所】
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