シーシャバーの換気設備と法律―図面作成時の注意点まで

著者:行政書士 猪飼久遠 | シーシャ開業専門の行政書士


シーシャバーの飲食店営業許可で図面の不備として最も多いのが「換気設備の記載不足」です。シーシャバーは炭でフレーバーを加熱する業態であり、普通の飲食店にはない「一酸化炭素(CO)」のリスクを抱えています。


この記事では、シーシャバーの換気に関わる法律の基準と、許可申請の図面で何をどう書けばいいかを解説します。



シーシャバーの換気が重要な理由──CO中毒の実態

最初に、なぜシーシャバーで換気がここまで重要なのかを数字で示します。


・シーシャの炭はCOを大量に発生させる
シーシャはフレーバーを炭で加熱する構造です。炭が燃焼する過程で一酸化炭素(CO)が発生します。COは無色・無臭で、気づかないうちに中毒症状を引き起こす危険な気体です。


・5年半で64件の救急搬送
東京消防庁と日赤医療センターの研究チームの調査によると、2018年1月から2023年6月までの5年半で、水タバコに関連する救急搬送が64件発生しています。患者の8割以上が20代で、主な症状は意識消失・めまい・嘔吐・頭痛です(coki:シーシャ人気の裏で知られざる一酸化炭素中毒のリスク)。


・シーシャバーの約6割がCO中毒症状を経験
筑波大学・村木功教授の調査では、全国約1,400のシーシャ提供店にアンケートを実施。回答のあった191店のうち約6割が、客や従業員にめまい・吐き気などの急性CO中毒の症状が出た経験があると回答しています(同上)。


・東京都が2025年3月に注意喚起を発表
東京都は2025年3月、「水たばこ(シーシャ)一酸化炭素中毒の危険」と題した注意喚起を公式に発表しました。「換気扇をつけたり、扉や窓を開放するなどして、室内の一酸化炭素濃度を下げるようにしましょう」と呼びかけています(東京都公式)。



シーシャバーの換気に関わる4つの法的基準

シーシャバーの換気には4つの法律が関わります。すべて「シーシャバー専用の基準」ではなく、飲食店や建築物に共通する基準ですが、炭を使うシーシャバーでは特に厳しく見られるポイントです。


法律 基準 出典
建築基準法 1人あたり20㎥/h以上の換気量 施行令第20条の2
ビル管理法(建築物衛生法) CO₂ 1,000ppm以下、CO 10ppm以下 厚生労働省:建築物環境衛生管理基準
事務所衛生基準規則(労安法) CO 50ppm以下(換気設備)、CO 10ppm以下(空調設備) 厚生労働省:事務所衛生基準規則
健康増進法 喫煙室入口で0.2m/秒以上の気流、煙の屋外排気 厚生労働省:受動喫煙防止


建築基準法──1人あたり20㎥/hの換気量

建築基準法施行令第20条の2は、居室に設ける換気設備の必要換気量を「1人あたり1時間に20㎥以上」と定めています。これは成人男性が静かに座っている状態のCO₂排出量を基に算出された基準値です。


シーシャバーに置き換えると、たとえば定員20人の店舗なら20人×20㎥=毎時400㎥以上の換気能力が必要になります。ただし、シーシャバーは炭の燃焼によるCO発生があるため、この最低基準では足りないケースも十分にあり得ます。


ビル管理法──CO濃度10ppm以下

建築物衛生法(ビル管理法)は、特定建築物(延べ面積3,000㎡以上等)に適用される基準ですが、一般の飲食店でも空気環境の目安として参照されます。


ここで重要なのはCO(一酸化炭素)濃度10ppm以下という基準です。CO濃度が200ppmを超えると頭痛などの症状が出始め、さらに上がるとめまい・嘔吐、最悪の場合は死亡に至ります(東京都多摩立川保健所)。


事務所衛生基準規則──スタッフを守る基準

シーシャバーのスタッフは労働者です。事務所衛生基準規則では、換気設備を設けている場合のCO濃度を50ppm以下、空気調和設備(エアコン等)を設けている場合は10ppm以下に維持することを求めています。


シーシャバーのスタッフは長時間COにさらされるため、客よりもリスクが高い立場にあります。換気はお客さんの安全だけでなく、スタッフの安全を守るための法的義務でもあります。


健康増進法──喫煙室の技術的基準(参考)

シーシャバーは「喫煙目的施設」として店内全体で喫煙が可能な業態です。喫煙室を別途設ける必要はありません。


ただし参考として、健康増進法が定める喫煙室の技術的基準は以下の3つです。


・出入口で室外→室内方向に0.2m/秒以上の気流
・煙が室外に流出しないよう壁・天井等で区画
・煙を屋外に排気すること


シーシャバーでは店全体が喫煙空間なので「煙が室外に流出しない」は直接適用されませんが、「煙を屋外に排気する仕組み」は保健所の検査で必ず確認されます。


保健所の図面で見られる換気のポイント

飲食店営業許可の申請図面で、保健所が換気設備について確認するのは以下のポイントです。


・給気口と排気口の両方が記載されているか
排気口(換気扇)だけ描いて、給気口を描いていない図面が非常に多い不備パターンです。空気は「入口」と「出口」の両方がなければ流れません。給気口の位置も図面に記載してください。


・空気の流れが成立する配置になっているか
給気口と排気口が隣同士に配置されていると、空気が室内を循環せずショートサーキットを起こします。給気口と排気口はできるだけ対角に配置し、室内全体の空気が入れ替わる設計にする必要があります。


・「給気」「排気」の区別が明記されているか
丸を描いて「換気扇」とだけ書いた図面では、それが給気なのか排気なのかわかりません。「換気扇(排気)」「給気口」のように、役割を明記してください。


現場を知る行政書士として

図面の換気記載で差し戻されるケースの大半は「排気だけ描いて給気がない」というパターンです。保健所の検査員はシーシャバーが炭を使う業態であることを把握しているので、換気設備は通常の飲食店よりもシビアに見られます。事前相談の段階でラフ図面を持参し、「シーシャバーなので炭を使います」と伝えた上で換気の配置を確認してもらうのが最も確実です。


シーシャバーの換気で押さえるべき3つのこと

法律の基準を踏まえた上で、シーシャバーの換気設備を設計する際に押さえるべきポイントを3つに絞ります。

❶ 換気量は「法律の最低基準」では足りない

建築基準法の20㎥/h・人は、あくまで通常の居室を想定した基準です。炭を燃焼させるシーシャバーでは、この基準を満たしていてもCO濃度が安全域を超える可能性があります。


内装業者や設備業者と相談する際は、「建築基準法の最低基準」ではなく「シーシャバーとしてCO濃度を安全に保てる換気量」を基準にしてください。具体的な換気量の設計は設備業者の専門領域ですが、「炭を常時使用する業態である」という情報を必ず伝えることが重要です。


❷ CO警報器の設置を検討する

CO警報器は法的に設置が義務づけられているわけではありませんが、設置を強く推奨します。CO(一酸化炭素)は無色・無臭のため、濃度が上がっても人間の感覚では気づけません。CO警報器があれば、濃度が危険レベルに達する前に対応できます。


家庭用のCO警報器は数千円で購入できます。開業費用全体から見れば微小なコストで、スタッフとお客さんの安全を守れます。


❸ 換気設備の設計は内装業者に任せ、法的要件は行政書士が整理する

換気設備の設計・施工は内装業者や設備業者の専門領域です。行政書士が換気量の計算やダクトの設計をするわけではありません。


ただし、保健所に提出する図面への記載方法や、どの法律のどの基準を満たす必要があるかの整理は行政書士のカバー範囲です。内装業者が作成した設備図面を、保健所の申請に必要な形式に落とし込む作業は、行政書士に相談していただければスムーズに進められます。


まとめ

シーシャバーの換気は「空気を入れ替えればいい」という単純な話ではありません。炭を使う業態だからこそ、CO中毒のリスクが存在し、法律上の換気基準を理解した上で設備を設計する必要があります。


保健所の図面では「給気口と排気口の両方」「対角配置」「名称の明記」が最低限必要です。換気量の設計は設備業者に、法的要件の整理と図面作成は行政書士に。それぞれの専門家と連携することが、スムーズな許可取得への最短ルートです。


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参考:この記事の根拠法令・情報源

法令
建築基準法施行令(e-Gov法令検索)(第20条の2:換気設備の技術的基準)
事務所衛生基準規則(厚生労働省)(第3条:CO・CO₂の含有率基準)
厚生労働省
建築物環境衛生管理基準(CO₂ 1,000ppm以下、CO 10ppm以下)
受動喫煙防止対策(喫煙室の技術的基準)
東京都
東京都:水たばこ(シーシャ)一酸化炭素中毒の危険(2025年3月)
東京都多摩立川保健所:一酸化炭素中毒に注意しましょう
調査・報道
coki:シーシャ人気の裏で知られざる一酸化炭素中毒のリスク(東京消防庁の救急搬送データ・筑波大学の調査結果)
東京労働局:一酸化炭素中毒の防止について(許容濃度50ppm)