この記事を書いた人/行政書士久遠事務所 代表 猪飼久遠(行政書士/登録番号26191514)
愛知県稲沢市を拠点に、シーシャバーの開業支援を取り扱っています。約2年半のシーシャバー勤務経験があります。
「前のシーシャバーの設備がそのまま残っている居抜き物件を見つけた。許可も引き継げるのではないか」——このお考えは、半分正しく半分間違いです。
ポイントは、飲食店営業許可だけは条件次第で引き継げるが、深夜酒類とたばこは必ず取り直しになることです。
この記事では、居抜き物件でシーシャバーを開業する場合の手続きを、許可の種類ごとに整理します。
| 許可・届出 | 引き継ぎ | ポイント |
|---|---|---|
| 飲食店営業許可 (保健所) |
条件付きで可能 | 前オーナーが営業中に事業譲渡として契約し、地位承継の届出をすれば引き継げます |
| 深夜酒類の届出 (警察署) |
不可 | 承継の制度がありません。新オーナーが新規に届出をします |
| たばこ出張販売許可 (財務局/JT) |
不可 | 申請主体は協力するたばこ小売販売業者です。オーナーが変われば契約から結び直します |
| 健康増進法の経過措置 | 不可 | 既存特定飲食提供施設の経過措置は、新たに開業する営業者が引き継げるものではありません |
令和5年12月13日以降、事業譲渡による営業許可の地位承継ができるようになりました。それまでは、合併・分割・相続の場合しか承継が認められていませんでした。
前オーナーが営業している状態で事業を譲渡した場合、譲受人が保健所へ地位承継届を提出することで、新規の許可申請なしに営業者の名義を変更できます。
根拠:生活衛生関係営業者等の事業活動の継続に資する環境の整備を図るための旅館業法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日公布)による食品衛生法の改正/厚生労働省「事業譲渡に関するリーフレット」
▶前オーナーが営業中の店舗を「事業として」譲渡すること
▶譲渡契約書など、譲渡の意思と事実を確認できる書類があること
▶譲受人が、事業譲渡日以降に遅滞なく保健所へ届出をすること
▶届出後、保健所による施設の検査を受けること
▶届出の手数料は不要
個人事業主が法人になる「法人成り」も、事業譲渡として承継の対象になります。この場合も、個人と法人の間の譲渡契約書等が必要です。
前オーナーがすでに営業を終了している場合、それは「事業の譲渡」ではなく設備・造作の譲渡です。承継制度の対象になりません。
居抜き物件の多くは前オーナーが退去済みのため、実務上は新規申請になるケースがほとんどです。また、施設の同一性が認められない場合や事業内容が大幅に変わる場合も、新規の許可が必要になることがあります。
【実務上のポイント】
承継を使いたいなら、前オーナーが営業をやめる前に話をまとめる必要があります。「物件を見つけてから前オーナーを探す」のでは間に合いません。
譲渡人は、事業譲渡を行おうとする場合、あらかじめ保健所に相談することとされています。前オーナーにもこの点を伝えて、一緒に動いてもらってください。
深夜酒類提供飲食店営業の届出には、名義変更や承継の制度がありません。経営者が変われば、新オーナーとして新規に届出をすることになります。
深夜営業の空白期間を作らないため、実務では次の段取りが取られることがあります。
▶①新オーナーが、営業開始予定日の10日前までに開始届を提出する
▶②届出から10日の間は、前オーナーの届出のもとで営業を継続する
▶③10日経過後、新オーナー名義で深夜営業を開始する
▶④前オーナーは、廃業の日から10日以内に廃止届を提出する
ただし、同一の営業所について届出が重なる形になるため、この進め方が可能かどうかは所轄の警察署に確認してください。署によって対応が異なる可能性があります。
前オーナーが営業を終了しているのに廃止届を出していない場合、注意が必要です。
前オーナーと連絡が取れるなら、廃止届を作成して署名をもらう形が確実です。連絡がつかない場合は、賃貸借契約書や貸主からの書面を持参して警察署に事情を説明し、対応を相談することになります。
【実務上のポイント】
この確認は、物件を契約する前にやってください。「前の店が深夜酒類の届出を出したままになっているかどうか」は、内見の段階では見えません。
仲介業者に、前テナントの業態と廃業の経緯を聞いておくだけでも違います。届出の手続き全体は深夜酒類提供飲食店営業届出の記事をご覧ください。
たばこの出張販売は、たばこ小売販売業者が申請し、シーシャバー側は出張販売の場所として同意する形をとります。申請主体はシーシャバーではありません。
そのため、オーナーが変われば協力事業者との委託関係を新たに結び直す必要があります。
最大のリスクがここです。前オーナーと契約していた小売販売業者が、新しいオーナーとは契約しないという判断をすることがあります。
そうなれば、店内でシーシャを提供する根拠が失われます。居抜き契約を結ぶ前に、前オーナーを通じて協力事業者へ話を通しておくのが確実です。
出張販売の仕組みはたばこ出張販売許可の記事、小売販売との選択は小売販売と出張販売のどちらを選ぶべきかの記事で解説しています。
見落とされやすいのが、健康増進法の扱いです。
小規模な飲食店に認められている喫煙可能室の経過措置(既存特定飲食提供施設)は、法の施行の際に現に存していた施設を対象とするものです。
前の店が喫煙可能だったからといって、新しく開業する営業者が同じ扱いを受けられるとは限りません。設備が残っていることと、法令上の地位を引き継げることは別の話です。
店内で喫煙させるには、喫煙目的施設の要件を正面から満たす必要があります。要件については改正健康増進法のガイドをご覧ください。
▶①警察への「深夜酒類の廃止届」は提出済みか
未提出なら、署名をもらって処理する必要があります。前オーナーがまだ営業中なら、新オーナーの開始届を先に出す手順も検討できます。
▶②保健所への廃業届は提出済みか
まだ営業中であれば承継制度を使える可能性があります。廃業済みなら新規申請です。
▶③協力していたたばこ小売販売業者の連絡先
新規に飛び込みで依頼すると断られやすいため、前オーナーから引き合わせてもらうのが確実です。
▶④当時の店舗図面(平面図・求積図など)
図面がもらえれば、内装を変えない場合の図面作成の手間と費用を減らせます。
居抜きで最も見落とされるのが、設備が今の基準に合っているかです。
令和3年6月施行の改正食品衛生法により、手洗い設備には再汚染防止構造(レバー式など)が求められます。前の店がハンドル式のままだった場合、そのままでは許可が下りません。
▶手洗い器の水栓が再汚染防止構造になっているか
▶シンクの数が想定するメニューに見合っているか
▶調理場と客席が間仕切り等で区画されているか(カウンターだけでは不可)
▶調理場に独立した換気設備があるか
▶深夜営業をするなら、客室の面積・照度・見通しの条件を満たすか
設備の詳細は保健所検査の調理場・シンクの設備ルールの記事で解説しています。
内装工事費は抑えられます。ただしシーシャバーの場合、換気設備が自分の想定する煙量に対応できるかを確認してください。ダクトの増設が必要になれば、想定外の費用が発生します。費用の内訳はシーシャ開業の費用を解説した記事をご覧ください。
用途地域という点では同じ結論になります。ただし前の店が適法に深夜営業をしていたとは限りません。「前も深夜までやっていたから大丈夫」という判断は危険です。必ずご自身で確認してください。調べ方は出店できないエリアの記事で解説しています。
いけません。営業者が変われば、新しい営業者名義の許可証を掲示する必要があります。承継の届出をした場合も、新しい許可証の交付を受けてください。
▶飲食店営業許可は、前オーナーが営業中であれば事業譲渡による承継が可能(令和5年12月13日以降)
▶法人成りも承継の対象になる
▶前オーナーが廃業済みなら承継は使えず、新規申請になる
▶深夜酒類の届出に承継制度はない。必ず新規届出が必要
▶たばこ出張販売は、協力事業者との契約から結び直しになる
▶健康増進法の経過措置は引き継げない。喫煙目的施設の要件を正面から満たす必要がある
▶設備が現行の基準を満たしているか、契約前に確認する
「契約してから考えよう」では手遅れになる論点が多い業態です。物件が見つかった時点でご相談ください。前オーナーとの調整から各種届出の同時進行まで対応できます。
開業に必要な手続きの全体像はシーシャバー開業に必要な許可まとめ、契約書で見るべき条項は賃貸契約書チェックリストの記事をご覧ください。
前オーナーとの調整、廃止届の処理、新規申請の図面作成までワンストップで対応します。
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