この記事を書いた人/行政書士久遠事務所 代表 猪飼久遠(行政書士/登録番号26191514)
愛知県稲沢市を拠点に、風俗営業許可、深夜酒類提供飲食店営業開始届出、飲食店営業許可など、飲食・接客業の開業手続を取り扱っています。


届出は営業を始めるための手続きであって、そこで終わりではありません。
営業を続けている間ずっと、風営法上の義務がかかります。とくに従業者名簿は、深夜帯以外に働くスタッフも含めた全従業者が対象である点が見落とされがちです。


この記事では、届出後に守るべき事項を整理します。開店前にひととおり目を通しておいてください。



開業後の義務は8つ    LIST


▶①従業者名簿を備え付ける
▶②営業所の構造設備を基準に適合するよう維持する
▶③照度を20ルクス以下にしない
▶④騒音・振動を条例の数値未満に維持する
▶⑤午後10時〜翌午前6時に18歳未満を接客業務に従事させない・立ち入らせない
▶⑥20歳未満に酒類を提供しない
▶⑦届出事項に変更があれば変更届、廃止すれば廃止届を出す
▶⑧立入りに対応する


出典:風営法第32条、第33条、第36条、第37条/同法施行規則第99条/愛知県風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例


①従業者名簿は全従業者が対象です    ROSTER

風営法第36条は、従業者名簿を営業所に備え付けることを義務づけています。この対象範囲について、警察庁の解釈運用基準は次のように明記しています。


解釈運用基準 第35中1(2)

「第33条第6項に規定する酒類提供飲食店営業」や「深夜」において営む「飲食店営業」について、従業者名簿の記載を要する従業者とは、午後10時以降又は深夜において当該営業に係る業務に従事する従業者のみならず、全ての従業者である


▶深夜帯のスタッフだけでなく、昼間だけ働くスタッフも記載対象
▶雇用契約のある労働者に限られない
▶業務の一部を委託している場合、その委託業務に携わる従業者も記載対象
▶労働基準法に基づく労働者名簿の記載により代替できる場合は、別に作成することを要しない


出典:警察庁「解釈運用基準」(令和7年5月30日付け通達)第35中1


【実務上のポイント】
名簿は作って置いておくだけでは意味がありません。立入りの際に提示を求められる書類です。スタッフの入れ替わりがあったら、そのつど更新してください。
また、記載事項や備付けの方法は施行規則で定められています。様式や記載項目については、届出先の警察署に確認しておくと確実です。採用時に公的な身分証明書で生年月日を確認し、その記録とあわせて管理する運用にしておくと、後で困りません。


②〜④構造設備を維持する    STRUCTURE

風営法第32条第1項は、営業所の構造設備を技術上の基準に適合するように維持しなければならないと定めています。届出時に基準を満たしていればよい、という話ではありません。


▶客室の床面積は一室9.5平方メートル以上(客室が一室のみの場合は適用されない)
▶客室の内部に見通しを妨げる設備(仕切り、ついたて、カーテン、背の高い椅子等)を設けない
▶善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けない
▶客室の出入口に施錠の設備を設けない(営業所外に直接通ずるものを除く)
▶営業所内の照度を20ルクス以下としない
▶騒音・振動を条例の数値未満に維持する


開業後の「ちょっとした変更」に注意

営業を続けていると、席を増やしたい、間仕切りを置きたい、照明を変えたいという場面が出てきます。これらは基準に抵触する可能性があります。
見通しを妨げる設備は高さ100センチメートルが実務上の目安とされ、衝立やパーテーションだけでなく、棚、植木、水槽なども対象になり得ます。天井からカーテンやすだれを吊るすのも同様です。
また、雰囲気を出すために照明を落としすぎると、20ルクスを下回るおそれがあります。客室の照度を10ルクス以下にすると、風俗営業(低照度飲食店)の許可対象になります。


騒音の数値基準は深夜営業の騒音規制の記事で詳しく解説しています。


⑤⑥年齢に関する2つのルール    AGE


年齢 内容
18歳未満 午後10時から翌午前6時まで、客に接する業務への従事・客としての立入りが禁止(法第32条第3項)
20歳未満 時間帯を問わず、酒類を提供してはならない


届出時に提出した「営業の方法」には、20歳未満の者への酒類の提供を防止する方法を記載しています。そこに書いた運用を、実際に実行してください。掲示を出すと書いたなら掲示を出し、身分証明書の提示を求めると書いたなら求める、ということです。


詳しくは飲食店の深夜営業と18歳未満の記事をご覧ください。


⑦変更があれば届出を    CHANGE


手続き 期限
変更届(氏名・名称・住所/営業所の名称/構造設備の概要) 変更の日から10日以内
変更届(法人の名称・住所・代表者の氏名) 変更の日から20日以内
廃止届 廃止の日から10日以内



改装を計画している場合は、工事の前に届出先の警察署に相談してください。詳しくは変更届・廃止届の記事をご覧ください。


⑧立入りは届出の有無を問いません    INSPECTION

風営法第37条第2項により、警察職員は午後10時から翌午前6時までの時間においても営業している酒類提供飲食店営業の営業所に立ち入ることができます。届出をしているかどうかは関係ありません。


▶届出書と添付書類の控え、申請・届出受領書を営業所に備えておく
▶従業者名簿を最新の状態にしておく
▶飲食店営業許可証を掲示しておく(食品衛生法上の義務)
▶実際の営業内容が「営業の方法」の記載と一致しているか確認する


【実務上のポイント】
立入りは犯罪捜査ではなく、行政上の指導・監督のための調査です。解釈運用基準でも、法の目的の範囲内で必要最小限度で行わなければならず、正当に営業している者に対して無用な負担をかけることがあってはならないとされています(第36中1(1))。
書類がそろっていれば、短時間で終わります。逆に、名簿が更新されていない、控えがないという状態だと、確認に時間がかかります。日常の管理が最大の対策です。


飲食店営業許可の義務も続きます    HEALTH

風営法上の義務とは別に、食品衛生法上の義務も継続します。


▶食品衛生責任者を置き続ける
▶飲食店営業許可には有効期間があるため、期限前に更新する
▶許可証を営業所に掲示する
▶衛生管理の計画を作成し、実施の記録を残す


飲食店営業許可の更新を忘れると、風営法上の「飲食店営業」の前提が崩れます。許可証に記載された有効期間を確認し、更新の時期を管理してください。


制度の関係は飲食店営業許可との違いを解説した記事で整理しています。


よくある質問    FAQ

Q.届出済であることを示す標識を掲示する必要はありますか?

深夜酒類提供飲食店営業は届出制のため、風俗営業のような許可証は交付されません。掲示義務の有無については、届出先の警察署に確認してください。なお、飲食店営業許可証については、食品衛生法上、営業所に掲示することが求められます。

Q.従業者名簿はどのくらいの期間保存しますか?

備付けの方法と保存については施行規則で定められています。退職後も一定期間の保存が必要になるため、退職したからといってすぐ廃棄しないでください。具体的な期間や様式は、届出先の警察署に確認しておくことをおすすめします。

Q.SNSでの集客は問題ありませんか?

イベントや日々の告知をSNSで行うこと自体に問題はありません。ただし、風営法の客引きに関する規定について、解釈運用基準では「客引き」とは相手方を特定して営業所の客となるように勧誘することをいい、インターネット上における勧誘行為についても該当し得る場合もあるものと解されるとされています(第17中10(1))。
相手が断っているのに個別に来店を促し続けるような行為は避けてください。なお、この規定は風俗営業を営む者を対象としたものです。深夜酒類提供飲食店営業への適用については、愛知県の関係条例とあわせて確認することをおすすめします。

Q.届出に更新はありますか?

ありません。営業を続ける限り、届出は有効なままです。更新手数料も発生しません。ただし、届出事項に変更があれば変更届が必要です。

まとめ    SUMMARY

▶従業者名簿は、深夜帯以外に働くスタッフも含めた全従業者が対象
▶委託業務に携わる従業者も記載対象。労働者名簿で代替できる場合は別途作成不要
▶構造設備は届出時だけでなく、営業中ずっと基準に適合させて維持する
▶見通しを妨げる設備の追加や、照度を落としすぎる変更に注意
▶午後10時〜翌午前6時は18歳未満を接客業務に従事させず、立ち入らせない
▶20歳未満への酒類提供は、時間帯を問わず禁止
▶変更届は10日以内(法人の名称等は20日以内)、廃止届は10日以内
▶立入りは届出の有無を問わず行われる。控えと名簿を整えておく
▶飲食店営業許可には有効期間がある。更新を忘れない


開業後の義務は、日常の管理を仕組み化しておけば負担になりません。従業者名簿の更新と、届出書類の保管場所。この2つを開店前に決めてください。


届出後の変更手続きや、営業を続けるうえでの確認事項についてもご相談いただけます。