この記事を書いた人/行政書士久遠事務所 代表 猪飼久遠(行政書士/登録番号26191514)
愛知県稲沢市を拠点に、風俗営業許可、深夜酒類提供飲食店営業開始届出、飲食店営業許可など、飲食・接客業の開業手続を取り扱っています。


深夜営業の開業でいちばん取り返しがつかない失敗は、物件の契約です。
書類の不備は作り直せますし、内装は追加工事でなんとかなります。しかし「その場所では深夜営業ができない」という結論だけは、契約後にどうにもなりません。


この記事では、深夜営業を予定している方が物件を契約する前に確認すべき項目を、法令上の要件と実務上のリスクに分けて整理します。内見に持って行けるチェックリストとしてお使いください。



契約前チェックリスト    CHECKLIST


▶①用途地域は第一種地域ではないか
▶②建物が用途地域の境界にまたがっていないか
▶③風営法の構造設備の基準を満たせる区画か
▶④貸主・管理会社が深夜営業を承諾しているか
▶⑤上下階・隣接住戸との音の関係はどうか
▶⑥飲食店営業許可の施設基準を満たせるか
▶⑦将来、接待や遊興を行う可能性はないか


①②が法令上の可否を左右する項目、③⑥が工事で解決できるかどうかの項目、④⑤⑦が後々のトラブルに直結する項目です。順に見ていきます。


①用途地域を確認する    ZONING

愛知県では、条例により第一種地域で深夜の酒類提供飲食店営業ができません


用途地域 深夜の酒類提供
第一種・第二種低層住居専用地域 できない
第一種・第二種中高層住居専用地域 できない
第一種・第二種住居地域 できない
田園住居地域 できない
準住居地域 できる
近隣商業地域・商業地域 できる
準工業地域・工業地域 できる
用途地域の指定がない区域 できる


出典:愛知県「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例」第2条・第27条・別表第一〜第三


地域区分の詳細と条文の根拠は、深夜酒類提供飲食店営業ができない用途地域の記事で説明しています。


②境界にまたがっていないか    BORDER

用途地域の境界は、道路や地番で区切られています。同じブロックでも、通りを一本挟むと区分が変わることがあります


地図サービスの表示だけで判断しないでください

インターネットの都市計画情報は概略の確認には便利ですが、境界付近では表示のずれが判断を誤らせます。また、一つの建物が複数の用途地域にまたがっているケースもあり、この場合の取扱いは愛知県の条例にも警察の公式案内にも定めがありません。
契約を判断する物件については、市町村の都市計画担当課で番地を示して確認し、境界にかかりそうなら所轄警察署にも相談してください


③構造設備の基準を満たせるか    STRUCTURE

深夜に飲食店営業を営む店には、風営法第32条第1項および同法施行規則第99条により、営業所の構造設備について技術上の基準が定められています。


▶客室の床面積は一室9.5平方メートル以上(客室が一室のみの場合は適用されない)
▶客室の内部に見通しを妨げる設備を設けないこと
▶善良の風俗又は清浄な風俗環境を害するおそれのある写真、広告物、装飾その他の設備を設けないこと
▶客室の出入口に施錠の設備を設けないこと(営業所外に直接通ずるものを除く)
▶営業所内の照度が20ルクス以下とならないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること
▶騒音又は振動の数値が条例で定める数値に満たないように維持されるため必要な構造又は設備を有すること


出典:風営法第32条第1項/同法施行規則第99条


「見通しを妨げる設備」とは    PARTITION

深夜に営業する飲食店は、客室の中に見通しを妨げる設備を置けません。外から見て店内の様子が分かる状態を保つ、という趣旨です。


警察庁の解釈運用基準は、これに当たるものとして仕切り、ついたて、カーテン、背の高い椅子(高さがおおむね1メートル以上のもの)を挙げています。


▶実務上は、高さ100センチメートルが目安になります
▶衝立やパーテーションだけでなく、棚、植木、水槽なども対象になり得ます
▶天井からカーテンやすだれを吊るすのも、見通しを妨げることになります
▶無色透明なガラス板でも、紙や布を貼れば見通せなくなるため、同じように高さが問われます


出典:警察庁「解釈運用基準」(令和7年5月30日付け通達)第12中8(1)。100センチメートルの目安および棚・植木・水槽等の取扱いは実務上の運用です。


カウンターは高くても問題にならない場合があります

高さの制限がかかるのは「客室の中の見通し」です。ですから、壁際に調理場があってカウンターがその手前にあるような配置なら、カウンターが100センチメートルを超えていても、客室の見通しは妨げていないと考えられます。
逆に、客室の真ん中にカウンターや棚があって、そこで客席が分断されてしまう配置は認められません。高さだけでなく、どこに何を置くかが問われます。


【実務上のポイント】
居抜き物件で見落とされやすいのが「継ぎ足された衝立」です。もともと90センチメートル程度だった仕切りの上に板やパネルが足されて、100センチメートルを超えてしまっているケースがあります。
この場合、継ぎ足した部分を撤去する必要があります。内見のときに、仕切りの高さをメジャーで測っておいてください。
また、「個室感のある席にしたい」という内装の希望は、この基準と真っ向からぶつかります。設計の段階で、間仕切りの高さと配置を所轄警察署に確認しておくのが確実です。


④貸主・管理会社の承諾    LANDLORD

用途地域が問題なくても、賃貸借契約で深夜営業が制限されていれば営業できません。これは法令の問題ではなく契約の問題ですが、実務上は同じくらい重要です。


▶契約書の使用目的欄に、深夜営業を含む飲食店営業と記載できるか
▶営業時間を制限する特約がないか
▶居抜き物件の場合、前テナントの営業形態と同じ範囲まで認められるか
▶ビルの管理規約で、共用部の使用時間や施錠時刻の定めがないか


とくにビルの入口が深夜に施錠される物件は、深夜営業と両立しません。内見の際に、深夜帯の建物の状況を必ず確認してください。


⑤音の問題    NOISE

愛知県の条例では、深夜における飲食店営業の騒音について、地域ごとに規制値が定められています。


地域 深夜の騒音 振動
第一種地域・第二種地域(準住居地域) 40デシベル 55デシベル
第三種地域(近隣商業・工業・準工業・用途無指定など) 50デシベル 55デシベル
第四種地域・第五種地域(商業地域など) 50デシベル 55デシベル


出典:愛知県風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律施行条例 第26条・第7条第1項(深夜=午前0時から午前6時まで)


【実務上のポイント】
内見の際は、上下階と隣室に何が入っているかを必ず確認してください。上階が住居、隣が住宅という物件は、法令上営業できても近隣からの苦情が発生しやすくなります。
苦情は行政指導のきっかけになります。BGMの音量を上げる業態や、深夜に客の出入りが多い業態を想定しているなら、周辺の建物用途は物件選定の判断材料に入れてください。


⑥飲食店営業許可の施設基準    HEALTH

深夜酒類提供飲食店営業の届出は、飲食店営業許可を前提とする手続きです。したがって、保健所の施設基準も満たす必要があります。


名古屋市は、施設の工事着工前に設計図面等を管轄の保健センターに持参して相談するよう案内しています。愛知県も、事前相談から始まる流れを案内しています。


▶物件が決まったら、内装工事の発注前に保健所(保健センター)へ事前相談する
▶食品衛生責任者を誰にするか決める(資格がない場合は養成講習会の受講が必要)
▶許可権者は、名古屋市・豊橋市・豊田市・岡崎市は各市、それ以外は愛知県


出典:食品衛生法第55条/愛知県「食品営業許可について」/名古屋市「食品取扱施設 営業許可」


⑦将来の業態変更を見込んでおく    FUTURE

開業時は接待も遊興も行わない予定でも、営業を続けるうちに業態が変わることがあります。


接待・遊興を始めるなら、その物件では営業できない可能性があります

接待を行うなら風俗営業の許可が必要になりますが、風俗営業には第一種地域に加えて、学校・幼保連携型認定こども園・保育所・病院・有床診療所からの距離による地域規制がかかります(愛知県条例第4条)。
また、深夜に客へ遊興をさせる特定遊興飲食店営業は、愛知県では名古屋市の一部区域(条例別表第五の地域および第五種地域)でしか営業所を設置できません(同条例第22条)。
「今は深夜酒類の届出だけ、将来は接待も」という構想があるなら、物件選びの段階でその条件も満たすか確認してください


制度の違いは風俗営業許可との違いを整理した記事特定遊興飲食店営業との違いを解説した記事で確認できます。


よくある質問    FAQ

Q.居抜き物件で前のオーナーが深夜営業していました。そのまま営業できますか?

届出は営業者ごとに行うものなので、あなた自身の名前で新たに届出が必要です。前テナントが営業できていた事実は、あなたが営業できることを保証しません。用途地域は確認できますが、契約条件や建物の状況が変わっている可能性もあります。改装を伴う場合は特に、契約前に確認してください

Q.マンションの一室でバーを開けますか?

用途地域が第一種地域でなく、賃貸借契約や管理規約で店舗としての使用が認められていれば、法令上は不可能ではありません。ただし、マンションは住居が近接するため騒音の問題が起きやすく、管理規約で店舗利用や深夜の共用部使用が制限されていることも多いです。物件の管理会社に、深夜営業の可否を明確に確認してください。

Q.契約を急かされています。何を最優先で確認すべきですか?

用途地域です。ここが第一種地域なら、他の条件がどれだけ良くても深夜営業はできません。市町村の都市計画担当課に電話で番地を伝えれば確認できます。契約を急かされている状況こそ、この一本の電話が必要です

まとめ    SUMMARY

▶最優先は用途地域。第一種地域(7用途地域)では深夜営業ができない
▶境界付近の物件は、市町村の窓口で番地を示して確認する
▶客室が複数なら一室9.5平方メートル以上。見通しを妨げる設備は置けない
▶見通しを妨げる設備は高さ100センチメートルが目安。棚・植木・水槽・吊り下げカーテンも対象になり得る
▶カウンターは客室内の見通しを妨げない配置なら高くても問題にならない
▶居抜きは「継ぎ足された衝立」に注意。内見時にメジャーで測る
▶照度は20ルクス以下にできない。暗い内装の希望は設計段階で確認する
▶賃貸借契約と管理規約で深夜営業が認められているかを確認する
▶深夜の騒音規制は準住居地域で40デシベル。上下階・隣室の用途を見ておく
▶内装工事の発注前に保健所へ事前相談する
▶将来接待や遊興を行う可能性があるなら、その地域規制も満たす物件を選ぶ


物件は、契約してしまえば何年も付き合うことになります。内見のときに30分かけて確認しておけば防げたはずの問題が、開業後に何年も続くことがあります。急いでいるときほど、この確認を飛ばさないでください。


物件の候補段階からご相談いただけます。住所と想定している営業形態が分かれば、その場所で営業できるかの確認からお手伝いします。