この記事の執筆者:行政書士久遠事務所
愛知・名古屋エリアを中心に風営法許可申請を専門に取り扱う行政書士事務所です。風俗営業許可・特定遊興飲食店営業許可・深夜酒類提供飲食店営業届出など、開業に関わる各種申請を専門にサポートしています。


風俗営業許可は、原則として引き継げません。ただし、法律が3つだけ例外を認めています。


相続、法人の合併、法人の分割。この3つに限り、公安委員会の承認を受けることで、営業者としての地位を引き継ぐことができます。


ただしそれぞれ手続の順番と期限が厳格に決まっており、間違えると許可そのものが失効します。この記事では、承継の実務を整理します。



承継できる3つのケース

ケース 承認のタイミング 期限
相続 事後 被相続人の死亡後60日以内に承認申請
法人の合併 事前 登記の前に承認を受ける
法人の分割 事前 登記の前に承認を受ける


相続だけが事後、合併と分割は事前です。この違いを取り違えると、取り返しがつきません。


①相続|死亡後60日以内

風営法第7条第1項は、次のように定めています。


風俗営業者が死亡した場合において、相続人が被相続人の営んでいた風俗営業を引き続き営もうとするときは、その相続人は、被相続人の死亡後60日以内に公安委員会に申請して、その承認を受けなければならない


60日の起算点に注意

相続の手続では「相続があったことを知った時から」という起算方法が一般的ですが、風営法は「死亡後60日以内」です。相続人が死亡を知った時期は関係ありません。


親族間で連絡が遅れると、その分だけ準備期間が短くなります。ご家族が風俗営業を営んでいる場合は、この期限を知っておいてください。


申請すれば、営業を続けられます

相続人が承認の申請をした場合、被相続人の死亡の日から、承認を受ける日または承認をしない旨の通知を受ける日までは、被相続人に対してした許可は、その相続人に対してしたものとみなされます(法第7条第2項)。


これは大きなメリットです。申請さえしておけば、承認が下りるまでの間も店を閉める必要がありません。逆に、60日以内に申請しなければ、許可は失効します。


承継できるのは1人だけ

相続人が2人以上いる場合は、協議により承継すべき相続人を1人に定めます
複数の相続人が共有して許可を承継することはできません
承継する相続人が欠格事由に該当しないことが必要です


遺産分割協議が長引くと、60日の期限に間に合わなくなります。誰が営業を続けるのかを、早い段階で決めてください。


承認されなかった場合

承認をしない旨の通知を受けたときは、遅滞なく、被相続人が交付を受けた許可証を公安委員会に返納しなければなりません(法第7条第6項)。


承認後の手続

承認を受けたら、許可証を新しい営業者の名義に書き換える手続が必要です。これを忘れると法違反になります。


②法人の合併|登記の前に承認

風俗営業者たる法人が合併により消滅する場合において、あらかじめ公安委員会の承認を受けたときは、合併後存続する法人または合併により設立された法人が、風俗営業者の地位を承継します。


「あらかじめ」がすべてです。承認を受ける前に合併の登記をしてしまうと、風俗営業許可は失効します。合併後に「実は許可が消えていた」と判明すると、無許可営業の状態になります。


③法人の分割|登記の前に承認

風営法第7条の3は、次のように定めています。


風俗営業者たる法人が分割により風俗営業を承継させる場合において、あらかじめ当該分割について公安委員会の承認を受けたときは、分割により当該風俗営業を承継した法人は、当該風俗営業についての風俗営業者の地位を承継する。


手続の順番

分割計画(または分割契約)を作成する
公安委員会に分割の承認申請をする
承認を受ける
官報公告、債権者への個別催告
分割の登記を申請する
登記完了後、許可証の書換え申請・変更届出を行う
飲食店営業許可についても、保健所で承継の手続を行う


②を飛ばして⑤に進むと、許可が失効します。M&Aや組織再編のスケジュールを組むときは、公安委員会の承認に要する期間を必ず織り込んでください。


会社法上の手続と風営法上の手続が並行するため、司法書士との連携が重要になります。


承継できないケース

事業譲渡/店舗と設備を売買しても、許可は移りません
個人から法人への法人成り/新規許可が必要です
個人事業主の間での譲渡/新規許可が必要です
営業者が生存中の名義変更/制度として存在しません


これらの場合、買い手は新規に許可を取り直すことになります。標準処理期間55日を含め、その間は営業できません。


法人成りについては個人から法人にするとき|許可は引き継げないで詳しく解説しています。


株式譲渡は「承継」ではありません

実務上、よく検討される方法です。


法人が許可を受けている場合、株式を譲渡しても、許可を受けている法人自体は変わりません。したがって、風営法上の承継手続は生じません。


ただし、注意点があります。
役員が交代すれば、変更届出(20日以内)が必要です
新任役員に欠格事由があれば、法人が欠格の状態になります
2025年11月28日施行の改正で、暴力的不法行為を行うおそれがある者が支配的影響力を有する者が欠格事由に追加されました。株主の属性も無関係ではありません
申請時に提出する株主名簿の写しとの整合も問題になります


「株式譲渡なら手続不要」という理解は正確ではありません。役員構成と実質的支配者の確認は必須です。詳しくは法人で風俗営業許可を取る場合の役員要件をご覧ください。


承継後に必要な手続

許可証の書換え申請/営業者の名義が変わるため
変更届出/法人の名称、代表者、役員等
管理者の変更届出/管理者が変わる場合
飲食店営業許可の承継手続/保健所での手続も別途必要です


風営法の承認が下りても、それだけでは完了しません。許可証の書換えと、保健所の手続まで含めて1セットです。


実務上のポイント

相続は死亡後60日以内です。「知った時から」ではありません
相続では、申請さえしておけば営業を続けられます。まず申請、が鉄則です
誰が承継するかを早く決めてください。共有はできません
合併・分割は登記の前に承認を受けてください。順番を間違えると許可が失効します
組織再編のスケジュールに、公安委員会の承認期間を織り込んでください。司法書士との連携が必要です
事業譲渡では許可は移りません。M&Aの手法を選ぶ段階で確認してください
承継後は、許可証の書換えと保健所の手続まで済ませてください。


まとめ

承継できるのは相続・合併・分割の3つのみ
相続は死亡後60日以内に承認申請。申請すれば承認まで営業を続けられる
相続人が複数なら、協議で1人に定める。共有はできない
合併・分割は、登記の前にあらかじめ承認を受ける
事業譲渡・法人成り・個人間の譲渡では承継できず、新規許可が必要
株式譲渡は承継手続の対象外だが、役員変更の届出と欠格事由の確認が必要
承継後は許可証の書換えと、保健所での飲食店営業許可の承継手続も必要


承継は、期限と順番を守れば通り、外すと許可が消える手続です。とくに合併・分割は、会社法上のスケジュールと連動するため、早い段階での準備が欠かせません。


相続が発生した場合は、60日という期限があります。できるだけ早くご連絡ください。組織再編をご検討中の方も、計画段階からご相談いただけます。


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